[日本の妖怪] 「鵺」――四つの動物が合わさった怪物、その名はもともと鳥だった

鵺(ぬえ)の姿を思い浮かべるには、体の部位を一つずつ見ていくのがわかりやすいでしょう。広く知られているのは、猿の頭、狸の胴体、虎の手足、そして蛇の尾という組み合わせです。異なる動物の特徴がつながっているため、どれか一種類の動物の名前だけでは説明できない姿です。
けれども、鵺を単に「いくつもの動物が合体した怪物」として覚えてしまうと、面白いところを見落としてしまいます。「鵺」という名前と、私たちが知る怪物の姿は、最初からひとまとまりだったわけではないからです。おなじみのアニメのキャラクターから少し離れて、その名につながる昔の物語をのぞいてみましょう。
1. 猿・虎・蛇・狸――鵺はなぜ「日本のキメラ」と呼ばれるのか

鵺を紹介するときによく使われるのが、「日本のキメラ」という表現です。異なる動物の体が一つにつながった姿を、直感的に伝えてくれる言葉です。ただし、鵺がギリシャ神話のキメラと同じ存在だとか、その伝承から直接生まれたという意味ではありません。
代表的な鵺の姿は、『平家物語』の退治譚と結びついています。猿の顔から視線を下げると、狸の胴体と虎の手足があり、後ろには蛇の尾が伸びています。見慣れた動物を一つずつ見分けられるのに、全体を言い表す名前は思い浮かばない。そんな組み合わせなのです。
ところが、古い文献まで見ていくと、鵺の姿は思うほど一つに定まっていません。国立公文書館が紹介する『頼政記』には、姿は猿、顔は狸、尾は狐、腹は蛇、足は猫という、少し違った組み合わせが登場します。私たちがよく思い浮かべる四種類の動物とは異なる描写です。
一方、同館が紹介する『平家物語』の版本では、猿の頭、狸の胴体、蛇の尾、虎の手足という姿になっています。「鵺の本当の姿はこれ一つ」と言い切れない理由です。ただし、文献ごとに描写が異なることと、妖怪が自由自在に変身するという設定は、分けて考える必要があります。
さまざまな姿が伝わっていることは、現代作品の鵺を見るうえでも面白い出発点です。見慣れた一つの姿だけを正解にしてしまうと、別の伝承を取り入れた表現まで、間違いだと思ってしまいかねません。鵺は、その外見から比較して楽しめる妖怪なのです。
2. 黒雲の中の怪物――宮中の恐怖を終わらせた矢

鵺退治として広く知られているのは、『平家物語』に伝わる源頼政(みなもとのよりまさ)の活躍です。舞台は平安時代末期、近衛天皇の御代の宮中です。実在した人物が登場しますが、妖怪を退治する場面は伝承として読むべき部分です。
夜になると天皇を悩ませる異変が続き、御殿の上には黒雲が現れます。祈祷だけでは事態が収まらないなか、立ち向かうのが弓の名手、頼政です。この対決で注目したいのは、まだ正体を十分に確かめられていない相手に、彼が狙いを定めるという点です。
頼政が雲の中の怪物に矢を放ち、地上に落ちたところへ家来の猪早太(いのはやた)がとどめを刺します。その後、明かりを近づけて初めて、いくつもの動物の体が組み合わさった異様な姿が明らかになります。「鵺は矢一本で倒された妖怪」とだけ覚えていると、共に退治した人物も、その姿が判明する場面も抜け落ちてしまうのです。
この伝承では、怪物がどのように攻撃したかだけでなく、人々が何を恐れていたかにも目を向けたいところです。物語の中心にあるのは、宮殿を破壊する激しい戦いよりも、天皇の病と夜ごとに訪れる不吉な異変です。権力の中心である宮中でさえ、得体の知れない存在の前では安心できる場所ではなくなるのです。
だからといって、鵺は人を食べていないのだから何の脅威でもなかった、と決めつけるのも早計です。少なくともこの退治譚では、天皇を苦しめる災いと結びついた存在として語られているからです。鵺の怖さは、鋭い爪だけでは説明できない種類の恐怖なのです。
私が特に印象に残ったのは、怪物の具体的な姿が、退治された後に明らかになるという順序です。まず不吉な異変が起こり、人々が恐れ、最後にようやく、その原因とされた存在を確かめます。鵺退治は、正体不明の恐怖が形を与えられていく物語としても読めるのです。
3. 鵺はもともと鳥の名――47作品を見る前に知っておきたい意外な話

この物語で最も意外なのは、名前の由来です。「鵺」はもともと、トラツグミという鳥と結びついた名前です。怪物の体はさまざまな獣に似ている一方、鳴き声は「鵺」という鳥に似ている、と説明されます。最初から怪物の固有名をはっきりと示しているわけではないのです。
トラツグミは実在する鳥です。日本野鳥の会は、夜に笛の音のような声で鳴くことを特徴として紹介しています。暗闇の中、姿が見えず、細い声だけが聞こえてくる。そんな場面を想像すると、鳥の声がなぜ不思議な物語と結びついたのか、考えてみたくなります。
ただし、伝説の怪物の正体が、科学的にトラツグミだったと解明されたわけではありません。実在する鳥の名前や鳴き声と、文学の中に描かれた怪物を区別することが大切なのです。「鳥に似た声で鳴く怪物」と「鳥を見間違えた事件」は、別の説明です。
この違いを知ると、現代作品に登場する鵺の見方も変わります。ある作品では動物が合わさった体が、別の作品では鳥のイメージや正体不明という印象が、より重要な要素になっているかもしれません。外見が違うというだけで伝承の鵺とは無関係だと判断する前に、何を取り入れているのかを見てみたいところです。
今回の連載の出発点にしたナムウィキの資料には、創作物の一覧として47項目が挙げられています。そこには鵺が直接登場する例だけでなく、モチーフとして言及される例や、名前、せりふ、事件の題材として使われる例も含まれています。「47作品が同じ怪物をまねした」というより、一つの伝承がさまざまに活用された例を集めた一覧なのです。
これから見ていくのは、それぞれの作品が選び取った、異なる鵺の姿です。一度にすべてを並べるのではなく、二、三作品ずつ取り上げ、外見や能力、物語での役割を比べていきます。同じ名前なのに、なぜこれほど違う姿になったのか。そして、姿が変わっても残り続ける鵺らしさとは何か。その違いと共通点を探っていきたいと思います。